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日韓経済安保シンポジウムに吉富代表と井形理事が登壇

1月30日東京大学駒場キャンパス エネオスホールにて開催された、東京大学先端科学技術研究センター 経済安全保障プログラム(ESRP)と、エネルギー国際安全保障機構、ソウル国立大学国家未来戦略院共催による日韓シンポジウムへ、当機構の吉富代表と井形理事が登壇発表を行った。

不確実性の高い世界の経済安保政策

ソウル国立大学国家未来戦略院のキム所長は、シンポジウム開会挨拶の中で、世界経済や社会情勢の不確実性が高まる昨今、日本と韓国が、いかに戦略を最大化し、リスクを最小化するか、そしてどのように共闘していくかが重要として、経済は競争を通じてのみ成長するが、その競争は破壊的ではなく建設的でなければならないことを強調した。

本シンポジウムに登壇した日本と韓国の6名からなる専門家は、日本と韓国が持つ地政学的性質、経済安保保障政策動向や主要産業の類似性や相違点に着目し、重要物資のサプライチェーンが相互補完的な体質を持っていることを指摘。それぞれの産業で、トップダウンに依存しない、現場での連携を強化したボトムアップの共闘体制の構築も訴えた。

井形理事は、主催側である東京大学先端科学技術研究センター特任講師・経済安保プログラムディレクターとして登壇し、半導体・AI産業に焦点をあて、2022年5月に成立した経済安全保障推進法へ言及。米国はじめ海外のアウトバウンド投資の政策や傾向に関しては、 特に中国への投資規制が強化されていることを指摘。日本も投資スクリーニングのメカニズムを取り入れる必要性を訴えた。

カーボンニュートラル技術と導入動向

ソウル国立大学材料工学部のナム・ギテ教授は、「カーボンニュートラル技術と気候変動」テーマの中で、両国とも製造業が主力産業であり、GHG排出の傾向も似ており、エネルギー改革への取組みで協力できることを強調。韓国政府による気候変動対策として、水素エネルギーを製鉄産業のエネルギー供給源として導入する計画を発表した。

成均館大学校化学工学部/高分子工学部のクォン・ソクジュン助教授は「半導体・AI協力」テーマ発表の中で原子炉基地の設置拡大に言及。拡大計画への会場からの質問に対し、韓国は国土が狭く高度も高いため再生可能エネルギーに適していないと回答。そのため原子力による電力供給能力を高める必要があることを前提に、原子力がなければカーボンフリー目標が達成しないことをユン大統領の現政権で発表していること、また、次世代小型原子炉のSMR1プロジェクト始動について触れ、米国はじめ様々な国と協力を進めていることを強調した。

(左から)ソウル国立大学政治外交学部パク・ジョンヒ教授、成均館大学校化学工学部/高分子工学部 クォン・ソクジュン助教授、ソウル国立大学材料工学部 ナム・ギテ教授

日韓協力への取組みに対する質疑でナム教授は、知的財産問題は、ライセンシングというメカニズムを通して日韓で良い協力関係が築けるはずであり、いかに一緒にエコシステムをつくることが重要であるかを強調した。

ソウル国立大学政治外交学部パク・ジョンヒ教授は、日韓で頻繁に会合する必要性に触れ、トップダウンで行うのではなく、現場の人間が協力体制をつくり、どの分野でどのような協力体制をつくるかを決めるべきあり、政策の意思決定の前に意見交換を頻繁に行うことの必要性も説いた。

細胞を用いて食肉や動物由来素材を製造する細胞農業は、従来畜産や海面養殖等と比較するとエネルギーを大量消費することが指摘されている。韓国におけるエネルギー政策は、エネルギー供給源の安定、コストなどのパラメーターとバランスをとりながら、エネルギー供給源が再生可能エネルギー供給源への移行のインフラ整備動向にも注視していく必要を感じる興味深い内容であった。

1国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 高速炉・新型炉研究開発部門, 2024/1/31, https://www.jaea.go.jp/04/sefard/ordinary/2022/2022090901.html

先端技術とLCA

東京大学先端科学技術研究センター 社会連携部門 RE-Globalの天沢逸里 特任准教授は「サステナブル技術のLCA」テーマ発表の中で、LCAは政策策定に使用されることが多くなっているが、まだLCA開発途上にあることに触れた。政策や企業の意思決定にLCAを使用した場合の課題について、バイオ由来プラスチックやモビリティ領域のシェアリング事業を事例として発表をおこなった。

耐久性品や消耗品は、そのエンド・オブ・ライフ(廃棄時)シナリオが、地域や廃棄方法の違いで変化する。それぞれのシナリオで分析すると、トレードオフが必ず発生することがわかっており、試験運用や実験過程にあるようなものを評価しようとすると、新興技術は過大な予測値になってしまうため、LCA分析は将来技術には適用されていない現実がある。そのような中で、研究開発先行型のスタートアップなどが、LCA分析をどのように活用できるか追跡したいと述べた。

研究開発ステージ▶️試験運用ステージ▶️大量生産ステージに沿って生産効率が変化する。

さらにLCAの持つ課題として消費者行動へも言及し、ライドシェアの比較研究から、ユーザーの行動結果から、LCA分析上では、必ずしも環境負荷値が、自動車購入の環境負荷コストを下回るものではなかったと発表した。

日韓協力に関する質疑に対して天沢准教授は、LCA研究としては、ライフサイクルのデータインベントリーを、サプライチェーン協働でつくることが重要であるとした。韓国製のもの、日本製のものを追跡した際、日韓のものはサプライチェーンが(産業によっては)相互依存していることが多く、お互いが情報共有しあい良いデータベースを作ることができれば、産業にとってもメリットは大きい。昨今LCAは輸出時に必要な情報となっている。ただ、ビジネス的にはコスト構造開示を避ける傾向が強く、公開へのハードルは高い。そのため、トップダウンだけではなく、ボトムアップでの実行の必要性も説いた。

バイオ技術による食料生産

当機構の代表理事であり、東大先端研センターの客員研究員でもある吉富代表は「バイオ技術による食料生産」をテーマに発表を行った。

いわゆる”バイオフード”(細胞性食品)というものが、どう環境負荷軽減へ貢献できるかを業界で検討を進めており、消費者行動やLCA分析の重要性も認識している。

政府レベルでは、この細胞農業技術をサステナブルなものとして推し進めるべきか決めかねている状態だが、民間レベルでは様々な協力体制が先行して進んでいることを強調した。

発表では、新規食品領域での国際連携の重要性を強調。

背景として、サステナブル目標へ向けた国際連携の必要性の他、単独の国での新規食品への社会実装への難しさ、国家間協議によって新規食品分野での二国間連携が促進される点を述べた。例えば、「単独の国での新規食品への社会実装への難しさ」に関しては、サステナブルな生産方法になり得る将来技術であっても、新興技術であるためにその詳しい内容は公開されていないことが多い。よって国内で技術開発が潤沢に行われているか否かが、行政にて取得可能な情報の質に影響し、単一国内での開発事例が少ない場合、規制整備の遅れを発生させ結果的に市場投入の遅れに繋がってしまう。よって複数国間で少なくとも安全・安心に生産するためのノウハウを共有する必要性に言及した。また、安全性評価の仕方や今後の貿易業務に必須なHSコードの決定、家畜伝染病予防の観点など、サステナブル技術の社会実装に向けて国家間で議論を行うべき項目も多い。そういった項目における二国間協議が、当該国どうしの企業レベルでの国際連携促進に貢献するだろうと述べた。

また、日本と韓国間での協力を推し進めるべき背景にも触れている。

食文化の親和性(海藻など、食経験を有するとみなされる食品の類似性等)や、近接国であるからこそ見られる特に水産分野の調達資源での課題意識の類似性に言及。加えて両国では細胞療法研究が進んでおり、細胞の大量生産技術の領域での協力も期待できる。最後に日本ー韓国間ですでに連携事例がある点に言及。当機構が覚書締結している韓国の細胞農業団体KSCA、SFS、そしてDongguk大学との連携を紹介した。

質疑においては、政権交代による政策変更にフードテック領域は影響を受けやすい可能性があるとした。国外では政治家が世論主導を行うために、サステナビリティへの貢献余地がある新規食品に対して、社会課題解決可能性への充分な検証なく、消費者の“Neophobia”感情を刺激し、票集めを行うための政治ツールとされてしまっているように見られる点にも言及した。

気候変動対策と細胞農業

日本と韓国は米国の同盟国であり、政治から経済まで米国に強く影響を受けているため、会場からは今年11月に迫った米国大統領選挙結果による米国政策への影響を懸念する質問が多く発言された。井形理事は、米国による政策に今後変化がおこり、また我々として同調できないものであれば、日韓は米国と離れ、別の選択を進むことも可能であるとし、また一方で、気候変動問題は政策に影響されず、世界で取り組み続けるべきもの、との考えを強調した。ナム教授は、現在の政策路線の根幹にあるのは、中国政府や市場を排除するものではないとして、気候変動問題は世界的問題であり、全ての国が参加する必要がある、と井形理事に同意。また、中国の習近平国家主席と米国のバイデン大統領で交わされた協議をみると、気候変動領域では協力できると発言していることにも触れている。

細胞農業研究機構は、アカデミアと民間事業会社が主体となり、今後予測されている動物由来資源の枯渇と需要過多への解決策、また新規市場開拓のいち分野として、政府間や事業会社に存在する様々な障壁を乗り越え、連携してきた実績がある。今後もボトムアップからの協力や連携を惜しまず、高まる不確実性をひとつひとつ乗り越えながら、持続可能な社会へと貢献していくものである。