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2023年度 JACA活動総括

2月に韓国のソウル大学で開催された国際学会、韓国細胞農業協会(Korean Society for Cellular Agriculture、以下KSCA)での登壇を皮切りに、日本の細胞農業業界の存在感を国内外で高めるため、細胞農業業界のほか、畜産業界、企業、国際連携団体、関係省庁、そして細胞農業によるサステナブル社会推進議員連盟の皆様との連携により、日本における細胞性食品産業の創出に向けた様々な活動を展開してきました。

当機構は2025年大阪万博開催に向けて、前年度末までに細胞性食品の安全性に関する政策をまとめるよう政府に働きかけています。2025年末には食品表示などの議論を終え、2026年から試食・販売ができるよう政策提言を行っています。そして2026年を目標に、日本で細胞性食品を販売することを実現するために取り組んでいきます。

2023年度の活動集計

● 国際会議: 24
● 国内会議: 39
● 海外講演会・セミナー登壇:8
● 国内講演会・セミナー登壇:28
● 海外視察: 5
● 国内視察:3
● 海外メディア取材: 3
● 国内メディア取材:7

3月に、経済産業省のバイオものづくり革命推進ワーキンググループ委員に、当機構の吉富代表理事が就任しました。細胞農業技術は食品生産だけでなく、動物再生医療分野への貢献も期待されています。一般財団法人動物再生医療推進協議会が主催する「第一回産業動物における再生医療シンポジウム」において、吉富氏がパネリストとして登壇しました。

翌月には、代替タンパク源を推進する国際シンクタンクであるGood Food Institute、韓国のKSCA、シンガポールを拠点に活動する細胞農業団体APAC-SCAとの間で覚書を締結し、協力体制を強化しました。また、海外動向を視察するため、イスラエルで細胞農業スタートアップが集まる場で企業と意見交換を行い、さらにGood Food Institute(GFI)イスラエル支部との協議を行いました。国内では、一般財団法人バイオインダストリー協会(JBA)のFood Bio Plus研究会と年間を通じて勉強会を開催し、連携を強化しています。

当機構は、多摩大学ルール形成戦略研究所で2020年1月に発足した「細胞農業研究会」を母体に、昨年度12月に一般社団法人として再始動しました。有料メンバーシップ制細胞農業業界団体として世界的にも大規模を誇り、5月の設立総会では、政府要人、国内外省庁関係者、業界団体、メンバー企業、学術機関、およびメディア一同が、吉富代表理事、井形理事が在籍する東京大学 先端科学技術研究センターのある駒場キャンパスに集まりました。

8月末に開催された細胞農業協会主催の「細胞農業会議2023」において、基調講演で「行政と産業界が情報を共有し、共同で対応策を策定する必要性」について訴え、この主題に関して日本経済新聞に取り上げられました。

また、経済産業省のMETIジャーナルでは、「政策特集 / 食を支えるイノベーション vol.5」として、細胞農業に焦点を当てた特集が組まれました。

代替タンパク質の国際会議「Good Food Conference 2023」がGFIによって米国で開催され、吉富氏がパネリストとして登壇を行いました。世界中から細胞農業業界ステークホルダーが集まった会場では至る所で活発な意見交換が行われました。シンガポールで同時期開催された国際会議「2nd Cultivated Protein & Fermentation Solutions」では、井形氏が「日本における細胞性食品領域の立ち上げに関する課題と進展」について講演しました。

毎年開催される秋のシンガポール国際アグリウィーク(SIAW)では、我々は東洋製罐社と共同で戦略会議とネットワーキングイベントを主催しました。日本のネットワークをどのように活用していくかについて協議しました。我々は日本から40名以上の企業会員ら連携先団体の会員らを代表団として率い、単一国からの代表団としては最大規模となりました。現地の細胞農業企業も訪問し意見交換も活発に行われました。政府および企業間でのさらなる協力体制が望まれます。

期間中に開催されたAsia Pacific AgriFood Innovation Summitでは「細胞性食品の官民協力をどう進めて行くべきか」というテーマで吉富氏がモデレーターを務めました。

国内においても、地方行政はじめ業界団体からの講演会登壇依頼を多くいただくことができました。大阪大学・島津製作所・TOPPANコンソーシアムとの連携もスタートし、大阪府との面談への臨席させていただきました。

10月は日本食糧新聞社「食品ニューテクノロジー研究会」での講演、住友商事オープンイノベーションラボ「MIRAI LAB PALETTE」での基調講演に続き、京都スマートシティエキスポ2023「日本のフードテックの現在地 世界との比較と未来の食の創造」のパネルセッションにて国内外有識者と共にパネルディスカッションを行いました。

米国のGood Food Instituteから代表兼創設者であるBruce Friedrich氏とチームをお迎えし、国内における取り組みを「細胞農業によるサステナブル社会推進議員連盟」事務局長の中山議員と共に協議しました。

12月には地域交流牧場全国連絡会 クラブ・ユース事業 「酪農サミット in 広島」 での講演に招待いただきました。牛乳飲み比べや広島大学の農場見学もあり大きな学びをいただきました。

12月には、国内外の当機構メンバーを含む協力関係団体から多大な協力を得て、細胞農業書籍『細胞性食品の将来展望:細胞性食肉の普及における課題や実装への技術・社会的取り組み』を発売することができました。機構メンバーである株式会社マイオリッジの鈴木氏、井形理事、吉富代表理事の3名が共同監修者として携わりました。この書籍は、日本において初めて、細胞性食肉に関する技術情報を包括的にまとめたものとして位置付けられます。各社からは「各記事の寄稿者の多彩さと情報の深さに驚いた」というメッセージを多数いただきました。

 

その他、当機構委員会で協議されている現在の施策を下記にまとめました:

【食品安全】
細胞性食品の安全性・品質管理に係る情報を見解書として整理するPJ Safetyを実施中です。PJ Safetyの実施を通じて産業界側での細胞性食品の安全性に係る見解を整理し、管轄省庁側の情報収集工数の軽減や、管轄省庁による企業との個別協議の際の意見交換の効率促進化を目指します。PJ Safetyでは、(1)主要国当局において細胞性食品の安全性をみる上で確認されている評価項目、(2)細胞性食品の開発企業が整理する開発品の安全性の根拠や品質管理方法を整理します。また、整理した情報を日本語に翻訳すると共に、食品・医薬品分野で実績のある日本の大手企業や専門家と共に、国内規制に照らし合わせてローカライズします。細胞性食品の安全性の議論には、国際的な議論を理解するだけでなく、他国の安全性確認プラクティスを参考に、国内現地の規制に適合させることも不可欠です。

【名称】
現在、細胞性食品の名称として「培養肉」(主にメディアで使用)、「細胞培養肉」(主にアカデミアで使用)、「細胞性食品」(主に政府やJACAにて使用)が乱立しています。細胞性食品の名称を決定する際には、海外で使用されている用語をそのまま翻訳するのではなく、日本の消費者に対する分かりやすさが重要視されるべきです。また、優良な名称候補を、国内関係者が統一的に使用することで、普及に務めることも欠かせません。JACAでは、消費者に対して透明性の高い名称を選定するための消費者調査を実施中です。この調査は2023年4月末までに完了予定です。

【食品表示】
細胞性食品を食べたいと思う消費者の方にきちんと手に取って頂けるように、業界として留意すべき表示のためのガイドライン作りを進めております。定義・食品表示委員会は、日本最大規模の法律事務所である西村あさひ法律事務所が中心となって運営を行っています。

【ブランド食材】
細胞農業は、既存の畜産関係の事業者の方が新しい事業機会を得る場であるとJACAでは考えております。その際に、既存の畜産関係の事業者の方と細胞性食品の生産事業者との間の相乗効果的な関係性を模索し、日本のブランド食材の生産者が従来のお肉とはまた異なる新たな細胞農業の市場での事業機会を得るために必要となる仕組みについて検討を続けているのが、知財委員会です。同委員会は、日本最大規模の法律事務所であるTMI総合法律事務所が中心となって運営を行っています。

今後も、関係者の皆様と協議を重ね、細胞農業産業の創出に向けて邁進していきます。