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アレフ・ファームズ社 細胞性牛肉ステーキでイスラエル販売承認取得

Aleph Cuts[1] ⓒアレフ・ファームズ社

2023年12月、イスラエルのアレフ・ファームズ(Aleph Farms)社からニュースが届いた[2]。かねてより販売イスラエル保健省へ販売承認申請を進めてきており、ついにアレフ社のステーキ状細胞性牛肉”Aleph Cuts(アレフ・カット)”に対し「No Questions (質問なし)」といった書簡を保健省より受け取ったことを発表した。これによりアレフ・カット商品は、イスラエル内での一般販売まで大きく前進したことになる。牛細胞による規制当局承認は世界初の事例である。

 

同社の規制渉外・品質保証・製品安全部門のYifat Gavriel部長は「イスラエル保健省(IMOH)のZiva Hamama博士が率いる食品リスク管理部門と緊密に連携し、当局による安全基準を完全順守し、新規食品の規制環境を形成へ貢献することで、食品の安全性と食料安全保障を強化する細胞農業への扉を開いた」と述べている。

この承認を経て、IMOHによるラベル表示とマーケティングに関する具体的な指示、およびアレフ・ファームズ社の試験生産施設に対する適正製造基準 (GMP) 検査の完了を条件として、イスラエルでアレフ・カットを製造および販売する許可が与えられた。

また、アレフ社の規制チームは、イスラエルだけでなく世界の主要市場や各国規制当局とも販売承認申請や戦略的パートナーシップを積極的に進めており、2023年3月シンガポールのEsco Aster社とは、シンガポール内でアレフ・ファームズが細胞性食肉を製造する際、エスコ・アスター社の製造専門知識利用に関して覚書を締結している[3]。同年7月には、2019年に出資を受けたスイスの大手小売業者ミグロス社とともにスイス当局へ許可申請提出を発表している[4]

世界初の細胞性牛肉”アレフ・カット”とは

細胞性牛肉”アレフ・カット”のタネ細胞は、米国カリフォルニア州の繁殖農場で飼育されていた高級ブラックアンガス牛”ルーシー”の受精卵を細胞供給源とした、非改変・非不死化の細胞である。大豆と小麦から作られた植物性タンパク質材料をステーキ肉の構造土台(足場)として、細胞性牛肉のアレフ・カットが作られている。ルーシーの受精卵の 1 つから得られるスターター細胞を除けば、培養工程中と培養生成された最終製品には動物由来の成分は含まれていない。 つまり、細胞増殖に必須とされてきたFBSと呼ばれるウシ胎児血清は含まれていない。製造時に抗生物質は使用されておらず、最終製品にも抗生物質は含まれていない。アレフ・カットは、トレーサビリティが確保された無菌の生産環境下で製造することにより、工程中の汚染リスクの大幅軽減を可能にした。

ⓒアレフ・ファームズ社 高級ブラックアンガス牛”ルーシー”[6]

Source (細胞採集):

まずはルーシーから採取した受精卵から始める。短期間増殖させた後、そこから細胞を取り出す。これらの細胞は、筋肉やコラーゲン生成細胞など、肉を構成するさまざまな種類の細胞に成熟していく。細胞はアレフ・ファームズ社の細胞バンクで氷点下の温度で保存され、アレフ・カットの培養に使用される。

Grow(培養):

次に、少数のスターター細胞をカルチベーターと呼ばれる増殖タンクに移動させる。アレフ・ファームズ社のカルチベーターは、細胞が増殖できる温度管理された清潔な密閉環境を作り出す。セル・フィードと呼ばれる細胞の栄養源には、水、酸素、栄養素、成長因子など、細胞が生きて成長するために必要なすべてを与えている。この環境下で、スターター細胞はすぐに多くの細胞分裂を始める。

Mature and Structure (成熟と組織化):

若い細胞を別々のカルチベーターに移し、筋肉とコラーゲンの異なる種類の細胞に成熟させる。牛の体内では、タンパク質やその他分子のネットワークがこれらの細胞を取り囲み、補完し、組織化されている。アレフ・ファームズ社では、大豆と小麦で作られた植物タンパク質マトリックスを使用してこのプロセスをモデル化し、培養細胞がアレフ・カットの形状と食感を形成できるようにしている。

Harvest and Culinary Innovation(収穫と料理イノベーション):

]わずか約 4 週間で、アレフ・カットは収穫と梱包できるようになるまでに育ち、配送まで保管も可能だ。納品先のシェフのご希望に沿って、ホールカット、スライス、細切りなど、いずれの形状でも提供することが可能である。

レリジョン食品としての細胞性食肉

イスラエル保健省の販売承認に先立ち、アレフ・ファームズ社は2023年1月、イスラエルの首席ラビ、デビッド・バルーク・ラウ氏より、彼らの細胞性食肉ステーキがコーシャ、つまり宗教法に基づいてユダヤ人による消費が許可されているとの裁定を得ている[7]。これはユダヤ教の宗教認証の先導者であるラビ評議会であるチーフ・ラビネートのリーダーによる採決であり、2030年にUS$30.3Billion規模[8]と予測されるコーシャ牛肉市場への商品投入に先立ち、細胞性食品の消費者需要喚起への重要な武器となるはずだ。

市場規模の観点でみると、レリジョン食品の最大市場はハラル食品である。2022年にUS$162.30Billionと評価されたハラル・ビーフ市場は、2031年にUS$295.98Billionと予測されている[9]。年間6千万トンが消費される試算だ。消費の中心となるのは中東地域の他、新興国のインドネシア、パキスタン、バングラデッシュ、イランとトルコにも広がる。

アレフ・ファームズ社はシンガポールのエスコ・アスター社との2023年3月に締結した覚書協定で、様々な宗教を信仰する人々に対して同社アレフ・カットを提供できるよう、宗教当局との協力を重ね規制基準を順守し、必要な証明書を取得していくことを発表している[3] 。


[1] Aleph Farms ホームページよりhttps://aleph-farms.com/wp-content/uploads/2023/03/AlephCuts-RaisingTheSteaks-Setting-M.jpg

[2] Aleph Farms, Aleph Farms Granted World’s First Regulatory Approval for Cultivated Beef, 2024/1/17, https://aleph-farms.com/journals/aleph-farms-granted-worlds-first-regulatory-approval-for-cultivated-beef/

[3] Aleph Farms, MOU With ESCO Aster, Facility Acquisition From VBL Therapeutics Clinch a Consequential Week for Aleph Farms, 2023/3/1, https://aleph-farms.com/journals/mou-with-esco-aster-facility-acquisition-from-vbl-therapeutics-clinch-a-consequential-week-for-aleph-farms/

[4] Aleph Farms, Aleph Farms Submits Application to Swiss Regulators, Marking the First-ever Submission for Cultivated Meat in Europe, 2023/7/26, https://aleph-farms.com/journals/aleph-farms-submits-application-to-swiss-regulators-marking-the-first-ever-submission-for-cultivated-meat-in-europe/

[5] Aleph Farms, Our Technology,  https://aleph-farms.com/our-recipe

[6] Aleph Farms, Lucy, https://aleph-farms.com/wp-content/uploads/2023/03/0eabdda7-fe9b-4dcd-a970-2b56c09c5233.jpg (2024/2/14)

[7] Aleph Farms,Chief Rabbi of Israel Affirms Aleph Farms’ Cultivated Steak is Kosher, 2023/1/19, https://aleph-farms.com/journals/kosher-ruling/

[8] Zion Market Research,Kosher Beef Market Size, Share, Growth Report 2030,   https://www.zionmarketresearch.com/report/kosher-beef-market (2023/2/14)

[9] Astute Analytica, Halal Beef Market-Industry Dynamics, Market Size, And Opportunity Forecast To 2031,2023/6/7, https://www.astuteanalytica.com/industry-report/halal-beef-market