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JACA 日本での細胞性食品の販売環境の構築を2026年までに進める目標(JACA紹介記事)

2024年2月8日代替プロテイン産業などを中心、に約25万人の専門家や一般読者にむけて多言語ニュースを展開するVegconomistでJACAを紹介いただきました。

こちらが掲載された記事の日本語版です。
※読みやすさを重視し、原文にはない補足情報の追記しています。


吉富愛望アビガイルさんは、細胞農業研究機構(JACA)の代表理事であり、経済産業省の産業構造審議会 商務流通情報分科会 バイオ小委員会 バイオものづくり革命推進ワーキンググループ委員でもあります。吉富さんは、2020 年にこの分野での功績が評価され、フォーブスジャパンによる「 30 UNDER 30 (世界を変える30歳未満の30人)」に選ばれました。

JACAは、細胞農業技術によって生産される食品製品を日本市場で実現するため、政策立案に重点を置き活動しています。

◆組織について簡単に紹介していただけますか?

細胞農業研究機構 (JACA) は、日本に拠点を置く非営利の政策シンクタンクであり、細胞農業に関する規制枠組みの構築と国際協力を促進する政策立案に重点を置いています。 JACAは、この分野に関心を持つ省庁、政治家、既存の食肉業界関係者、消費者団体、海外規制当局、さまざまな事業者と連携しています。

2024年2月7日の時点で、JACAの会員企業数は54社に成長しました。主に国内外の食品・ライフサイエンス企業を中心に、米国、シンガポール、イスラエル、フランス、オランダ、ドイツなどの海外細胞性食品スタートアップも所属しており、業界団体のCellular Agriculture Europe からMosa Meat社、米国 AMPS InnovationからUPSIDE Foods社がメンバー企業に名を連ねています。

◆主要消費者間で細胞性食品に対する認知向上に取り組まれていますか? また、現在の状況はいかがでしょうか?

日本において消費者意識を高めるための直接的なエンゲージメントは、今後の取組課題のひとつです。この領域では、Good Food Instituteとも共同連携を覚書締結しています。

現在、JACAは産業レベルでのステークホルダーとのエンゲージメントに焦点をあてており、全国・地方テレビ、日本経済新聞社、業界特化型メディア、消費者団体会員向けメディアからの取材依頼のみ受け付けています。 まずは規制当局や消費者に対して正確に説明するために、細胞性食品の安全性情報管理や海外規制動向のローカライズに取り組み、次の段階で、コミュニケーション活動を拡大できるようになります。

消費者意識調査ではいくつかの研究が発表されています。広島大学が実施し、農畜産業振興機構サイトで紹介されている「(2) 植物肉・培養肉のハンバーグに対する試食意識」調査によると、研究参加者の45%以上が細胞性食肉(本研究では培養肉と呼称)を、「少し食べてみたい」「食べてみたい」「絶対に食べてみたい」と回答している。調査参加者の10.4%が「知り合いに説明できるくらい知っていた(理解している)」と回答し、合計62.8%の人が「培養肉」という言葉を少なくとも聞いたことがあると回答しています。

◆日本における食肉生産と農業が環境に与える影響はどうでしょうか?このようなデータを管理されていますか?

そのような日本に関するデータは弊機構では管理しておりません。JACAの活動は、細胞農業の議論を「食料安全保障」と「国内経済の新機軸」という文脈で推進することにより、既存の畜産業を含む国内産業との連携を通じた事業拡大を促すことに重点を置いています。すなわち、細胞農業によって国内産業が直面する国内外の市場にどのような機会と変化が生じる可能性があるか、それらへの対処のために国内産業においてどのような共創関係が構築できるかを提案するという姿勢を持っています。世界からの投資が集まっている真新しい技術であるというだけで、推進活動に一辺倒となる状態は目指していません。新しい技術革新の潮流が生まれつつあるなかで、国内産業の既存の資産を使ってどのように立ち向かっていくかを検討することが弊機構の主眼となります。

◆出版に関われた細胞農業の規制や開発状況に関する最新の動向に関する技術書について教えていただけますか?

JACAメンバーの株式会社マイオリッジの鈴木氏に加え井形理事、代表理事である私(吉富)の3名が共同監修者として携わりました。日本において、細胞性食肉に関して相当程度の技術情報を含んだ書籍の編集としては初めての試みである理解です。発売後、各社から「各記事の寄稿者の多彩さと情報の深さに驚いた」というメッセージをいただきました。国内だけでなく、多忙を極める中でも各章やインタビュー欄に寄稿いただいた海外のプレーヤー、BlueNalu、UMAMI Bioworks、Good Food Institute、Forsea Foods、UPSIDE Foods、Wildtypeの皆さまにも感謝しています。日本にはプレーヤーが少ないため、この本をより実用的なものにするためには、これらの寄稿者からの情報が不可欠でした。
※ 追加参考リンク(出版された技術書):『細胞性食品の将来展望 細胞性食肉の普及における課題や実装への技術・社会的取り組み 』

◆日本で細胞性食肉を普及させるために、どのような対策が最も重要ですか?法律、安全性、消費者需要でしょうか?

どれも重要で関連していますが、現状では「販売に必要となる安全性についての情報や手続き等への見解整理」が一番重要です。日本には細胞性食肉の販売を認める、または禁止する法律はありませんが、厚生労働省は細胞性食肉の法的解釈と製造・販売・輸入の手続きを明確にする必要があります。これがなければ、企業は細胞性食肉の製造を実施するために食品区分にそった届出を所轄の保健所へ行うことができません。また、HSコードや動物伝染病予防法に基づいた輸入手続きが行き当たりばったりになってしまう可能性を懸念します。

◆細胞農業分野への最新の投資についてお聞かせください。また、その他の開発(脂肪?綿花?)についても教えてください。

注目すべき投資のひとつは、インテグリカルチャーが農林水産省の中小企業イノベーション創出促進事業から18億7000万円の資金を調達したことです。この資金は、「カルネットシステム」と呼ばれる同社独自のシステムを使った細胞性食肉の生産システム実証に使用されます。

もうひとつ注目すべきは、藤森工業株式会社(ZACROS)、TOPPANホールディングス株式会社、株式会社島津製作所の3社共同による「細胞性和牛肉の社会実装に関わる研究開発」が、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に採択されたことです。研究開発は、大阪大学、東京大学、東京女子医科大学、東京農業大学、そして我々JACAと共同で全国で実施されます。

◆ルール・ラベル表示・命名法などにステークホルダーとコンセンサスを得るために取り組んでいると伺いました。例を挙げていただけますか?

【食品安全】
まず、PJ Safetyというプロジェクトの下で、関係省庁向けに情報提供を目指しています。PJ Safetyではまず、(1)公開データ、(2)各食品の開発企業の「細胞性食品の安全性をどのように理解しているか」「品質管理方法」などの情報を収集しています。収集した情報に対してただ単に翻訳を行うのみならず、食品・医薬品分野で実績のある日本の大手企業とともに、国内規制に照らしあわせ検討をおこなう取り組みも進めています。細胞性食品の安全性に関して、国際的な議論を進めていくことも重要ですが、各国の現地の規制の下で当該の国際的な議論がどのように評価されるかを検討することも不可欠です。この「ローカライズ」のプロセスは様々な専門家を招集し実施する必要があるため、ある程度のリソース投入が必要です。同プロジェクトにて、各企業が保有する細胞性食品の安全性に関するデータのリスト化、つまり、各企業が安全性に関するトピックごとにどのようなデータを所有しているかも整理に務めたいと考えております。「どの企業がどのような分析を実施したか」が分かるリストをJACAから関係省庁へ共有することで、担当者は、細胞性食品の安全性の検討において必要と見られるデータを有する企業を探し回らずに済み、確認したいデータについてピンポイントで企業への問合せをかけることが可能となります。将来的には、企業と政府間が直接的に情報共有する機会を増やしたいと考えています。

【命名法】
細胞性食品の定義・呼称の決定にあたり、海外で使用されている用語を単純に翻訳するのではなく、製造方法や日本の消費者受容性などを考慮し、国内関係者による統一的な使用を目指しながら、合理的で分かりやすい日本語の呼称を検討しています。検討のために、消費者に親しみやすく、情報透明性のある細胞性食品の日本語表記を選定するための適切な消費者調査を企画しました。調査は2023年4月末までに実施される予定です。

【食品表示】
消費者にとってわかりやすい表示ルールのあり方を検討し、消費者庁や消費者団体との協議、消費者調査などを通じて合意形成したいと考えております。
定義・食品表示委員会は、日本最大の法律事務所である西村あさひ法律事務所が中心となり、表示に関する社会的合意形成の基礎として、食品表示に関する論点を整理したガイドラインを作成したいと考えています。

より詳細な情報はこちらをご覧ください。

◆岸田首相が退陣しても、細胞性食肉が同じように支持されると思いますか?

内閣府のトップが変わることで、細胞農業をめぐる議論の加速度的なスピードに影響を与えることはあり得ますが、「180度変わる」ような変化はないと思います。

というのも、前述で述べた資金調達事例のように、各省庁、あるいは「より実務的な」レベルですでに支援が始まっているからです。

岸田首相が内閣府を離れたとしても、与党は日本の最大与党である自民党のままかもしれません。自民党は2022年6月、食料安全保障の観点から細胞性食品の試食・販売・普及を認めるため、約20人前後の政治家からなる細胞農業によるサステナブル社会推進議員連盟を設立しました。自民党の甘利明元幹事長、松野博一元官房長官、畜産・酪農の分野の専門家である赤澤亮正議員らが中心となり、また経済安全保障問題の専門家である中山展宏 元国土交通副大臣が事務局長を務めています。(2024年2月8日時点の敬称)

◆細胞生食肉が日本のメニューや小売店に並ぶのはいつ頃になるとお考えですか?

JACAは2025年大阪万博開催に向けて、前年度年末までに細胞性食品の安全性に関する政策をまとめるよう政府に働きかけています。2025年末には食品表示などの議論を終え、2026年から試食・販売ができるよう政策提言を行っています。そして2026年を目標に、日本で細胞性食品を販売することを実現するために取り組んでいきます。