「細胞性食品の官能検査について推奨される一般的ガイドライン案」の作成(委託先:Vireo Advisors社)について

2024年4月9日

 一般社団法人日本細胞農業研究機構(JACA)では、細胞性食品における官能検査の実施に関する主要国におけるガイドラインの整備状況の調査をVireo Advisors社に委託しました。同社には、官能検査の環境整備に必要な推奨事項の提案も併せて行っていただきました。この度、その成果物を公開するに至りました。

 本レポートでは、官能検査の制度整備が進んでいる一部の国々(例:オランダ、シンガポール、イギリス)の取り組みや、その他の国(イスラエル、ドイツ、UAE、オーストラリアなど)における「試食会」または官能検査の実態について情報を収集・分析しております。また、日本を含む各国への参考資料として、官能検査の環境整備にかかる推奨事項を体系的にまとめることを目的としています。

*官能検査とは:官能検査は不特定でない人(開発等に携わった人等)を対象とし、細胞性食品の味についての感想などの調査を行う検査、「試食会」は一般消費者への実施と呼び分けます。

レポートからわかったこと

今回の調査を通じて、新開発食品/細胞性食品の上市前の官能検査や「試食会」に対する制度設計は国ごとに大きなばらつきがあることが明らかになりました。たとえば、オランダやシンガポールなどでは、新開発食品や細胞性食品の官能検査/「試食会」に関して明確な申請手順と審査プロセスが定められており、事前の承認取得が必要です。一方、国として官能検査/「試食会」に関する明確なルールがなく企業の自主性に委ねられている国があると分かりました。

レポートの要旨

 本書では、細胞性食品の官能検査の実施において、主要国が課す要件について、以下のような論点を中心に整理しています。

  • 官能検査に対する申請要否とその判断基準
     一部の国では、企業側の専門家によるリスク評価に基づき安全と判断されれば、政府への申請は不要とされています。
  • 申請先および審査体制の違い
     シンガポールではSFA(食品庁)、オランダでは独立専門家委員会が評価を担っており、審査負担や分担体制の工夫が課題となっています
  • 製品の取引可否(無料配布 or 有償提供)
     調査対象国すべてにおいて、未認可製品の有償取引は禁止されており、無料での官能検査のみが限定的に許容されています。
  • 安全性評価に必要な情報の項目
     官能検査の参加者による対象物の摂取前に、企画者によって確認されるべき安全性判断のための情報要件について整理しています。製品の成分、製造工程、アレルゲン、汚染物質や微生物等のリスクなどが項目として挙がります。
  • 申請から実施までのリードタイムと参加制限
     例:シンガポールでは8週間前までの申請提出、オランダ・シンガポールともに試食会の上限人数を30名以内としています。
  • 記録管理・追跡調査の実務要件
     日時・場所・参加者・免責同意書・緊急対応体制などの記録保管義務の有無や、有害事象が発生した場合の報告義務2週間の健康観察の実施例なども整理しています。

成果物内で指摘された、官能検査を実施する際のルール整備案

本書では、官能検査を実施するルール整備に関する提言として下記が挙がっています:

  • 官能検査を実施する際の明確なルール(手引き書)の策定
  • 「不特定又は多数」に該当しない形で官能検査を実施するための条件整理
  • 有害事象の報告や参加者の健康管理に関する追跡体制の設計
  • 免責同意書や記録の標準化に関する書式提供、等

日本における官能検査や「試食会」の可能性

 日本の場合、少なくとも新開発食品/細胞性食品の上市前の官能検査に特化した形での明確な解釈は関係省庁から提示されていません。ただし、現行制度上、「不特定または多数の人への提供=営業行為」とみなされる可能性が高いことから、細胞性食品を用いた「試食会」の開催は難しく、「官能検査」の実施にも注意が必要です。提供対象の範囲や目的によっては、食品表示法や食品衛生法の枠組みで法令違反と判断される恐れもございます

 また、営業行為に該当するかどうかは自治体の保健所が個別に判断するものであり、主催者側が事前に意図や対象者、提供形式を整理し、所轄保健所と確認を行うことが必須です。仮に保健所から「研究開発の一環である」と判断されれば法的な問題は生じにくいものの、それでも公の場やメディア向けに官能検査を実施することは、誤った情報発信に繋がり、制度検討中の消費者庁の議論に悪影響を与える可能性があるため、慎重な対応が求められます。とくに以下のような行為はリスクを伴います:

  • 「安全である」との印象を与える発言や表示を伴う広報・メディア発信
  • 不特定の第三者を多数招いた官能検査機会の設定
  • 広告・営業目的と疑われかねない形での提供

 今後も新開発食品/細胞性食品の上市前の官能検査に特化した形で、政府による見解が明確化される可能性は低いと考えられます。これは、食品の新規性などもあり、画一的な基準を決めるのではなく、ケース・バイ・ケースでの判断が望ましいとの背景もあると考えられます。このような背景からも、官能検査の実施を検討する事業者・開発研究者には、事前の所轄保健所への相談を強くお勧めします。また、新開発食品/細胞性食品の上市前における官能検査の実施にあたっては、消費者庁新開発食品保健対策室への事前の相談も行ってください。

ガイドライン資料ダウンロード

一般社団法人日本細胞農業研究機構(JACA)では、細胞性食品における官能検査の実 施に関する主要国におけるガイドラインの整備状況の調査をVireo Advisors社に委託しました 。同社には、官能検査の環境整備に必要な推奨事項の提案も併せて行っていただきました。この度、その成果物を公開するに至りました。