細胞性食品の国際的な安全性評価・規制動向に関する包括的レポートを公開

2024年5月24 日

一般社団法人日本細胞農業研究機構(JACA)は、細胞性食品に関する国際的な安全性評価および規制動向をまとめたレポートを公開しました。本レポートは、国内外のスタートアップや大手企業、規制機関、アカデミア(開発側)との連携を通じて得られた知見をもとに、細胞性食品の安全性評価に関する論点の全体像を描くものです。2023年5月に設定した戦略におけるステップIIにあたります。

レポートの概要

 本レポートでは、細胞性食肉・魚介類を対象とした安全性評価・規制制度の国内外の現状を紹介しています。文献調査に加え、日本市場を目指す国内外の企業(計10社)に対し、アンケート調査や個別ヒアリングを実施し、さらに最終段階では約40社と内容を共有し、意見収集期間を設けて集まったコメントを反映する形で最終化に至りました。特に日本市場への参入意欲の高い企業をヒアリング対象とすることで、日本が足元で講じるべき施策を検討する上で有用な内容となるよう調整されています。

レポートの構成(全4章)

  1. 主要国の規制当局が要求する安全性データの比較
  2. 製造工程および使用される物質の記述
  3. 細胞性食品におけるハザードの分析と管理措置の検討
  4. 一般的な安全性審査に必要とされ得る情報の要件整理

調査の実施体制

  • 調査実施期間:約1年間にわたり継続調査
  • 調査主体:JACAが企画・監修、Vireo Advisors(米国)が実施
  • 協力企業:日本市場への参入を志向する国内外の開発企業10社と個別ヒアリングを実施し、加えてJACA会員企業約40社への共有、フィードバック回収を経て完成
  • 契約体制:各ヒアリング対象企業−Vireo−JACAで三者間NDAを締結し、企業秘密を含む情報の収集・確認・統合を丁寧に実施
  • 成果物の形態:
    • 公開可能なバージョン(一般公開)
    • 関係省庁のみ開示可能なバージョン(限定公開)
      の二重構成とし、日本の技術情報の開示を防ぎつつ、安全性に係る情報を整理し行政に共有することを実現

質問票の形成

 本調査で個社ヒアリングに使用した質問票は、企業が政府や社会に対して自社製品の安全性に係る情報提供を行う際の項目として役立つものとなるようにデザインしました。

調査を終えて見えてきたこと:実務を通じて得られた実感

 ルール整備を国に求めるうえで、同時並行的に、「なぜ細胞性食品が安全なのかを、ある程度消費者に説明できるよう、準備すること」も産業界として重要な取り組みであると認識いたしました。これは、関係省庁との意見交換の中でも何度となく示唆された論点でした。

 本レポートでは、単に諸外国の制度や科学的知見を辞書的に整理するだけでなく、開発者が「安全性」をどう捉え、どのような科学的根拠をもって説明しているかを重点的にヒアリングし文書化することを目指しスタートしました。

 もちろん、ヒアリングへの協力にあたっては、一部企業秘密に触れざるを得ないという可能性もあり、企業の協力を得るための調整は決して容易ではありませんでした。しかしながら、「細胞性食品の安全性に係る日本としての見解整理に貢献したい」という共通の想いに支えられ、多くの企業が情報提供に応じてくださいました。

 加えて、レポート作成を進めるほどに実感した壁もありました。安全性評価においては「一般論」だけでは不十分であり、製品の種類×細胞の種類×培養方法×食品としての最終形態という膨大な組み合わせに応じた、きめ細かい評価軸が必要です。また、ある組み合わせにおいて培地Aの安全性が確認されたとしても、別の組み合わせでは同じ培地Aの使用は推奨されない、といった可能性もあります。ゆえに、「これさえ満たせばよい」といった一律のガイドラインを、今この段階で示すのは難しく、当面はケースバイケースの判断と、官と産学の間での継続的な情報共有体制が重要になると感じました。

 本レポートは関係省庁にも共有されています。制度検討の参考資料として活用されることを期待します。また、本プロジェクトの継続的な実施によって、JACAとして産官学の体制構築への貢献が行えればとの想いです。

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