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ソウルDongguk大学の訪問を受け、細胞農業に関する韓国の状況を講演いただきました

6月25日にソウルDongguk大学の訪問を受け、 Yooheon Park博士とその研究室の皆様に、細胞農業に関する韓国の状況を講演いただきました。

Park博士らは、韓国ソウルの東国(Dongguk)大学レギュラトリ―サイエンス学科に所属しています。同学科は、特に細胞性食肉などの新規食品に係る規制に関する教育を専門としており、食技術の適切な形での社会実装を支える人財を育てています。

同勉強会は農林水産省フードテック官民協議会の細胞農業WTの勉強会の一環として開催し、開催にあたっては事務局である細胞農業研究機構のサポートはもちろんのこと、東京大学先端科学技術研究センターにも会場提供についてご協力いただきました。

韓国は、開発進捗でいえば日本と良い勝負との個人的な印象ですが、その他の側面で日本より進んでいる部分があると感じています。また、これから日本との差が大きく開きそうな感触もあります。

日本との違いについて、例えば韓国の規制では、細胞性食品の販売に向けて企業がとるべき具体的なルールが示されている(日本では「売っちゃダメ」等の明確なルールがない)点があります。また、高品質な「培養肉」には「質の高いフレッシュな細胞」が必要であると早期に見抜き、細胞採取のための特区の実装化へ進み始めたことも、他国に類を見ない取り組みだと思います。また、初期投資がかさみがちな量産化設備を国側で準備することで、スタートアップの参入負担を減らしたことも、業界にとっては喜ばしい施策であると思料します。

自国の強みを新興産業に活かすための施策について、韓国の取り組みから学べることは多いように思います。韓国の状況は、日本として参考にしやすい国だと思います。米国は企業の責任の取り方に関する考え方について日本と違いがあり、またイスラエルやシンガポールは日本と同様に食料自給率の維持や向上に強い関心があるものの、親近感のある国かといわれると少し遠いと思います。

韓国の状況について気になる方は、同国の細胞性食品に係る各種施策について下記にまとめたため参考になれば幸いです。

  • 2022年8月:
    食薬処(MFDS, 日本の厚労省に相当)が食医薬分野革新製品の迅速な市場参入と国内の同産業のグローバル競争力を目指し、強化を支援する4分野100課題の一つに細胞培養食品を含める
    日本でいうところの厚労省相当機関が食品産業振興のスピード感を意識して安全性の議論体制構築を急いでいることがポイント。日本だと農水省と厚労省でそれぞれ推進・基準作り・監視が分かれている。
  • 2022年12月:
    韓国農食品部の指定するフードテック10大核心技術分野の一つに細胞培養食品を指定
  • 2023年2月:
    「細胞培養」産業育成戦略発表。また、食品衛生法施行規則及び食品医薬品安全処告示「食品等の一時的基準及び規格認証基準」改正により、細胞・微生物培養も食品原料と認めるための手続き明確化
  • 22023年3月:
    「慶北細胞培養産業支援センター」構築。開所式では韓国の培養肉産業の28の利害関係者が産業発展に向けたMOUに署名
    • 建設に90億ウォン(約9億円
    • TissenBioFarmを含む5社の企業と、嶺南大学細胞培養研究センター、研究所、分析室が収容
    • 2024年までに30億ウォン(約3億円)の予算で55種類の企業設備を設置することを目指す
    • 開所式では、細胞農業をワクチン、医薬品、化粧品、グリーンバイオ産業と結び付け、一体化された細胞農業産業を創出する計画が発表
  • 2024年5月:
    慶北細胞培養食品規制免除特区(RSFZ)の設置
    • 中部(細胞培養食品-ウィソン)に新産業分野のイノベーション成長拠点を構築。東海岸(バッテリー-ポハン)、北部(産業用ヘンプ-アンドン)、西部(スマートグリーン物流-キムチョン)、南部(無線充電-キョンサン)に続く5つ目の特区となる
  • 2024年:
    細胞培養産業先導企業向けGMP施設建設(着工)
    技術参入において研究・生産設備への投資負担が重いところを政府が支援していることがポイント