細胞性食品に係るコミュニケーションポリシー策定のお知らせ
作成:フードテック官民協議会 細胞農業WT
事務局:一般社団法人細胞農業研究機構(JACA)
フードテック官民協議会 細胞農業ワーキングチーム(以下、細胞農業WT)は、2026年3月10日、「細胞性食品に係るコミュニケーションポリシー(推奨・非推奨表現集)」(以下、本ポリシー)を策定したことをお知らせします。
作成にあたっては、2026年1月29日に細胞農業WT事務局(JACA)による素案回覧、1月29日~2月24日に意見収集期間の設置、2月20日にJACA全会員向け説明会、2月24日に細胞農業WT向け説明会兼意見交換会を実施し、以降に得られたご意見も併せて反映しております。
また、1月下旬~2月20日にかけて、食品企業および細胞性食品開発企業を中心に13社およびアカデミア3名との個別の意見交換を実施いたしました。これらは、実務経験や専門的知見を有する関係者からの参考意見を得て細胞農業WTで議論する素案の実効性を高めることを目的として実施したものであり、意見交換先は、細胞農業WTメンバー、細胞農業WTメンバーや事務局会員企業からの紹介企業、または本分野への参入・研究開発を公表している企業、ならびに本分野に関連する専門的知見を有するアカデミアから選定しております。
なお、本ポリシーは外部有識者の意見を参考とし素案を作成しつつも、細胞農業WTメンバーによる確認および意見反映を経て取りまとめたものです。
本分野のコミュニケーションの在り方については、今後のコミュニケーション環境の変化に応じて継続的な議論が必須です。加えて、本ポリシーは今後、細胞農業WTの成果物として発表のうえ、関係団体への共有を進めるほか、定義・FAQ集の作成、説明内容等の拡充を行う予定です。本ポリシーへのご意見・ご質問は細胞農業WT事務局であるJACAウェブサイトのお問合せフォーム(https://jaca.jp/contact/)よりお願いいたします。
◾️コミュニケーションポリシーの主なポイント(推奨する表現/推奨しない表現)
細胞農業WTは、細胞性食品に関する対外コミュニケーションにおいて、本ポリシーに沿った表現を心がけることで、社会との建設的な対話や本分野の実態に沿った理解につながる発信に努めてまいります。
1. 推奨する表現
「細胞性食品」
製品の性質を伝えるうえで科学的かつ中立的な表現です。「培養」「細胞培養」といった表現と比較して、消費者にとって従来品との混同が生じにくい表現です。また、相手先によって呼称を頻繁に変えると、コミュニケーションの一貫性が下がる可能性があります。可能であれば別用語を採用するステークホルダーに対しての情報提供の際にも、「~などの表現もありますが、当社では細胞性食品と呼称します」などの注記を併記し、以降の用語を統一することを推奨します。
「セルベース」フード/食品
「細胞性」の英語にあたるcell-basedをカタカナ表記にしたものです。「プラントベースフード/アニマルベースフード」と対比しやすく、概念整理に有用です。また、植物性食品をプラントベースやプラントベーストと表現することがあるため、「セルベース」のほかに、「セルベースト」も表現として可能と考えられます[i]。
「補完的」や「多様な」○○(食材/栄養)源などとして細胞性食品を説明
例えば栄養源が「たんぱく質」であれば、「補完的なたんぱく源」「たんぱく源の多様化」「多様なたんぱく質供給源の確保」「たんぱく質多様化」などの表現があり得ます。細胞性食品は、現在の食肉などによるたんぱく質供給を「置き換える」ものではなく、需要や供給不安に応える「補完的な選択肢」「たんぱく質多様化」と位置づけて説明することが重要です。「たんぱく質多様化」(Protein Diversification)については、World Business Council for Sustainable Developmentの発表した「Policies for Protein-Diverse Food Systems:A Business Perspective」というレポートの表現を参照しており、同書では、たんぱく質の多様化――すなわち、より幅広いたんぱく質源の組み合わせへと意図的に移行すること――は、食料システムの強靭性、気候変動対策などにとっての戦略的な梃となる、という表現が使用されています(一部抜粋)。
「従来の方法と比較して、将来的には資源効率性が高くなると想定される、たんぱく質などの生産方法」「たんぱく質の将来的な需給のギャップを補完する」などの表現
細胞に直接栄養を与えて増やす方法は、水や飼料などの資源を効率よくたんぱく質生産につなげ、将来的に当該栄養源の供給や価格の安定化を支える選択肢として期待されています。世界的な人口増加による需要増や、自然資源の制約、調達コストの変動などを背景に、たんぱく質への安定供給のための選択肢の拡充が重要な局面に来ています。
加工食品に近い旨+補足説明
誤解を避けるため、必要に応じて「加工食品に近い」位置づけを明記します。特にブロック状に見える製品は、「精肉そのもの」「動物を解体したもの」を想起させやすいため、次のような補足表記を推奨します。
- 推奨表記例:「これは、細胞[に栄養を与えて/を培養して]生産した細胞性食品を、○○と混ぜて作った/3Dプリンタなどを用いて成形した、細胞性(セルベース)の加工食品です。」
食文化の維持に向けた取組の積極的な紹介(例:細胞性うなぎ、細胞性まぐろ)
絶滅危惧に瀕する種を含む魚種などについて、部分的にでも慣れ親しんだ食を維持しようとする背景の中で、細胞性食品が位置づけられる点を紹介します。
「日本の強み」「日本にしかない技術」を活用する文脈の提示
日本の強みが細胞性食品分野で活きる文脈がある場合は、消費者・関係者へのコミュニケーションで積極的に発信してください。
2. 推奨しない表現
「代替」(例:代替肉・代替たんぱく)
従来農畜産品を「置き換える」意図に見えやすく、既存産業との対立や反発を招きやすいため使用を避けます。欧州や米国圏においても「alternative protein」という表現を回避する傾向が認められます。
「再現」「本物」(例:本物の肉、完全再現)
従来品と「全く同質」であることを保証する印象を与えますが、優良誤認や他産業への配慮不足につながるため使用を避けます。
「培養肉」
消費者にとってなじみのない「培養」などの技術用語を用いることで、細胞性食品分野の生産や市場の在り方について「容易に肉をまるまる生産可能な技術」「細胞性食品分野は食肉などの分野と競合する」などの誤解や不安を生じさせ、既存業界との軋轢を助長しやすいことから使用を避けます。可能な限り「細胞性食品」を用います。
検索性などの事情があっても、原則として対外資料の主要表記には用いないことを業界全体に呼びかけていきます。やむを得ず併記する場合は「○○とも呼ばれますが、本資料では細胞性食品と呼称します」などを付して発信します。
「クリーンミート」
他食品を「クリーンでない」と暗に位置づけ、対立構造を生みやすいため原則として使用を控えます。
「ラボミート」「インビトロミート」
細胞性食品という表現を推奨しておりますので、上記も原則として使用を控えます。
「動物を殺さず(と畜・と殺せず)に作る肉」
感情的・対立的に受け取られやすいため当該用語やそれを想起させる画像も含め、使用を避けます。代わりに、利点の説明は資源効率性・供給安定などの文脈での説明が望ましいと考えます。
「ブロック肉」「ステーキ肉」「特定の肉の部位に係る言葉(ヒレ、サーロインなど)」などの単独表現(製品がブロック状であっても)
解体して得た精肉ブロックなどのイメージを想起させ、優良誤認につながる可能性があります。また「肉そのものを生産している」と誤解されやすく、「代替」文脈を想起させるため避けます。使用する場合は「加工食品に近い」位置づけや工程の補足を必ず併記します。
「細胞農業」「収穫」(可能な範囲で使用を控える)
畜産農家や一次産業の方々から違和感の声が出ることがあり、「一緒にしないでほしい」という反発につながる可能性があるため、文脈に応じて使用を控えます。使用する場合の推奨例:細胞農業→細胞性食品分野、収穫→回収、もしくは培養工程と合わせて生産と呼ぶ、など。また、細胞農業については、一部のコミュニティから支持を受ける用語であるため、全面的に使用を控えるというよりも、記事のトップやイベント名としては差し控えるが説明文には含めるなどの配慮をいただく形での運用を目指します。
[i] 英語表記に関しては、The Good Food Instituteをはじめとする細胞性食品分野の推進を目指す団体にてCultivated Food という表現が現時点では推奨されています。