【シリーズ1】 どうして「培養肉」が必要なの?
どうして「培養肉」が必要なの?
世界の人口は2022年に80億人に達し、2050年には100億人になることが予測されています。人口増加にともない消費も増加しており、特に新興国のGDP増加による食生活はじめライフスタイルの変化によって、食肉や乳製品、魚介類などの動物由来たんぱく食材の需要が世界的に増加しています。2015 年のパリ協定で設定された気温上昇2度(努力目標1.5度)を達成しながら、人口100億人時代に現在の北米・ヨーロッパにみられる動物由来タンパク質に依存した食生活を叶えることは不可能である、という報告書が、2019年世界経済フォーラムから発表されました。
新しいタンパク質供給の方法が、世界で求められています。
2030 年までにそれを軌道にのせ、2050 年までに完全な実現を目指すには、世界的な食糧生産システムの変革が必要なのです。
2023年記憶に新しいのは、酷暑などの異常気象などにみられる気候変動の影響や、最近のウクライナ危機に代表される地政学的リスクは、穀物をはじめとする原材料の供給網を不安定にし、さらに価格高騰として反映されます。「培養肉」は、動物をまるまる育てるのではなく細胞に対して直接栄養を与えることで動物性たんぱく質を生産するため、上記のようなjaca環境変化に影響されにくい食糧供給源となり得るかもしれません。
日本の肉類生産は、とうもろこしなど飼料の多くを海外からの輸入に頼っています。
海洋汚染による魚介資源の水銀やマイクロプラスチック汚染、持続可能性に向けて現代の食肉生産方法の克服すべき課題は多く、従来の動物性たんぱく質の生産方法のみに依存するリスクは無視することができません。また、細胞性シーフード生産では、魚から採取するタネ細胞の検査を行うことで、海中で魚体内に蓄積されるマイクロプラスチックや水銀、アニサキスなどの寄生虫の影響なく食品を製造することが可能となるでしょう。
また、近年みられる国内生産従事者さん減少に対する対応策として、貢献できるかもしれません。
細胞性食品は、既存の食肉生産と比較して、再生エネルギーを使用した場合、肉種類によっては20%~90%環境負荷を減らすことが可能という試算されています。
環境負荷やアニマルウェルフェア領域で期待された新技術であるからこそ、開発方針の方向性策定にも影響を与えることが予想されます。
海外では世界的食肉大手のタイソンフーズ社や穀物メジャーのADM社、食品最大手のネスレ社やタイ最大の農業・食品企業チャロン・ポカパン・フーズが事業参入し、技術開発をリードするスタートアップと事業提携を行なっています。国内でも日本ハム、味の素、マルハニチロ、伊藤ハム米久、ハウス食品、日清食品などの大手食品企業が続々と参入しています。スタートアップ環境では、汎用性のある細胞培養量産システム開発に取り組むインテグリカルチャー社や、特許技術による3D細胞ブロック製造技術で細胞性チキンの開発を目指すダイバースファーム社、培地開発のマイオリッジ社、細胞増殖因子開発のNuProtein社等が技術開発で業界をリードしています。
「培養肉」とは?
細胞農業研究機構は育成細胞100%のものを「細胞性食肉」、育成細胞を原料として他の食材と併せて作ったものを「細胞性食肉加工食品」と呼び分けています。
細胞性食肉は、動物の体から細胞を採取し、その細胞を衛生管理された”培養槽”の中で栄養を与え増やします。そこで与える栄養は、細胞たちの”ごはん”です。”ごはん”はわたしたち生き物が生きていくために必要なビタミン・ミネラル・ブドウ糖はじめ、成長するために必要となる”成長因子(ホルモン)”などがあります。この増やし方、与えるごはん、生産方法に関する研究開発が世界中で競われています。
増やした細胞たちを組織工学(人工皮膚等を作る時に用いる技術など)で「かたまり肉」のように形作ることを得意とする会社もあれば、細胞を食品原料として食感は植物でできた「肉」でナゲットなどを再現する会社もあり、企業によって食品の特徴は様々です。
✅ツウだね!👌専門用語
養槽・培養器・バイオリアクター: 採取した細胞と培養液をいれ、細胞を増殖・分裂させて増やすためのタンクです。培養技術は日本の食生活に欠かせない技術であり、研究開発の歴史が長くあります。例えばビールやしょうゆ醸造等で使用されるタンクも培養槽なのです。
タネ細胞:動植物から採取した細胞です。これを大量培養するために処理して、培養槽の中で増やします。
育成細胞:タネ細胞を培養槽の中でいれて育てた細胞たちのことです。
基本的な製造方法は、下記5つの工程からなります
①タネ細胞と呼ばれる、増やすための細胞を動物から採取する
②タネ細胞の保存や、大量に培養する前の前処理をする
③ビール醸造に使うような培養槽に、糖やアミノ酸などの栄養の詰まった液(培養液)と細胞を入れて細胞を育てる
④培養液を洗い流し、増やした細胞を取り出す
⑤増やした細胞を原料として、食品を加工製造する