Q: 「培養肉」の課題は?
Q: 「培養肉」の課題は?
A: よく誤解されますが、食に関する社会課題の「万能薬」ではない点です。具体的な良し悪しについては、社会実装が進まないと見えてこない部分が多いですが、可能性はあるものの、わからないことも多い点が難しいポイントであると思います。わからないポイントの代表例を4つご紹介します。
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1. 食料の安定供給や環境負荷の低減に本当のところどこまで貢献できるのか?
この点は、今後の技術革新の度合や周辺産業(電力産業等)の今後の展望にも大きく影響されるため、確定的なことは言えない状況です。
例えば、細胞性食品の生産には、栄養分の主原料として糖やアミノ酸が必要で、結局のところ原料として穀物が必要になります。
この課題を解決するため、糖やアミノ酸を穀物ではなく、微細藻類から生産したり、(地域の)食品残さ等の未利用資源に置き換える試みも行われています。
細胞農業が食生産における環境負荷軽減への貢献性を真に発揮するために必要な生産システムのイメージ
このような技術開発が進んで実用化できれば、食料や飼料に使用する穀物への依存度を軽減できるかもしれません。また、細胞を増やす工程は大きな電力を必要とするため、環境負荷低減への貢献には、今後の再生エネルギーの普及が影響するでしょう。
2. 消費者からのニーズがどれほどあるのか
今までお肉やお魚を不自由なく食べてきた方々が、いくら食料の安全保障や持続可能性に貢献するからと言われても、急に細胞性食品を食べたくなるということは考えにくいです。
ではどういった消費者が細胞性食品を購入するかというと、環境負荷や動物倫理等の観点で肉食を控え、大豆ミートなどを食生活に取り入れようとしてきた層ではないでしょうか。
こうした消費者の割合が今後どれほど大きくなるかはなかなか予測できません。
3. 美味しいお肉の細胞を使って、同じ美味しさの細胞性食肉を作ろうとしても、その香りや味が再現できるかがわからない
長年にわたり専門家の中でも味を再現できると言う方とできないと言う方がおられ、今後もこうした意見の対立が続く(永遠に収束しない)可能性があります。
一方で細胞性食品を、全く新しい食材・食品としてとらえる考え方もあります。 例えば、殻を毎回取り除かなくてもよい細胞性の「カニ」を楽しむなど、従来のお肉では実現が難しかった、今までに体験できなかった食体験を経験したりすることも可能です。
イスラエルのAleph Farms社で、4ミリ程の薄い細胞性牛肉ステーキを試食しました。「つなぎ」の構造が肉汁をしっかり保つようにできているらしく、6分グリルしても「しっとり」とした食感でした。通常のお肉ではカリカリになってしまうほどの長い時間グリル(調理しつつ炭火の香りをつける工程)しても、ジューシーさが保たれるとのことですので、食の表現の選択肢が広がったとシェフがコメントされていたのが印象的でした。
(吉富代表理事が2023年4月にAleph Farmsの細胞性牛肉を試食した際の感想)
4. 安くて手に入りやすい状態が本当に実現できるかがわからない
オランダの環境コンサルティング会社が実際に技術を開発する会社から秘密情報の提供を受けて試算し、2021年に発表した結果によると、細胞性食品は2030年までに1kgあたり数百円程度で生産できる可能性があると言われています[1] 。
2013年に世界で初めて発表された細胞性食肉を使用したハンバーガーは、開発費込みで3千万円以上したそうなので、相当大きな技術革新が予想されているようです。
一方で、一定のたんぱく質供給を細胞農業で担うには、細胞を増やすための大型培養設備があまりにも多く必要となり、細胞性食品をたんぱく質供給源としてとらえるのは非現実的だと指摘する声もあります。生産するためのコストダウンや量産化は、現在の細胞農業にとって最重要テーマと言って良いと思います。
[1]Good Food Institute, CE Delft “LCA of cultivated meat ~ Future projections for different scenarios”